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人生100年時代を体も、そして“心”も健康な状態ですごしていくためには、加齢に伴う様々な変化をネガティブに捉えるのではなく、ポジティブに捉えることが大切です。
私たちは無意識のうちに、「歳をとると足腰が弱くなる」、「歳をとると物覚えが悪くなる」といった考えを持ってしまいがちです。このような老化に対するネガティブな考え方を「エイジズム」といいます。周囲の人が高齢者を何もできない“弱者”ともなして過剰に保護すべき対象として捉える、また、高齢者自身も「私はもう歳だから…」など、何事に対しても消極的になり、自分を過小評価することに繋がる考え方です。
歳を重ねることは素晴らしいことです。長年の経験によって培われた知見、物事をじっくり進める慎重さなど、高齢者ならではのポジティブな側面に焦点を当て、高齢に対するネガティブな考え方はできるだけ取り除きたいものです。
「歳を重ねることに前向きな考えを持っている人は死亡リスクが低い」―。このような興味深い調査結果があります。これは50歳以上の約1万4,000人の米国人を対象に4年間にわたり追跡調査したものです。それによると、「歳を重ねることに前向きな考えを持っている人」は、そうでない人に比べて、糖尿病・心臓病・脳卒中・がんといった慢性疾患、認知症などの発症リスクが低く、4年間の追跡期間中の全死亡リスクが43%も低いということが分かりました。
この調査では、歳を重ねることに前向きな考えを持っている人は日常生活も前向きに捉えており、「運動習慣がある」、「体をよく動かす」、「睡眠の質が良好」、「孤独を感じたり落ち込むことが少ない」、「生活に対して楽観的である」、「人生に対して目的がある」などの傾向がみられたといいます。
つまり、この調査結果から分かるのは、健康に長生きするために必要なのは、身体的な健康だけでなく、精神面でも前向きになること。歳を重ねることを前向きに考えることが、自然と「健康行動」に繋がっているのでしょう。
高齢者に求められる「老いを前向きに捉える」こと―。この点において参考にしたいのが、心理学者ポール・バルデスが提唱した「SOC理論」です。
私たちは自分が立てた目標を達成することで嬉しい気持ちや幸福感を得ることができますが、加齢によって身体機能が低下した状態では目標を達成することはだんだん難しくなってきます。SOC理論とは、若い頃よりも目標を絞り込み(Selective:選択)、それを達成できるように今の自分が持っている能力を効率的に使い(Optimization:最適化)、周囲からの援助やこれまで使っていなかった方法などで能力の低下を補う(Compensation:補償)というものです。
このSOC理論の好例としてよく挙げられるのが、1982年に95歳で亡くなった世界的なピアニストであるアルトゥール・ルービンシュタインの逸話です。89歳まで現役を続けたことでも知られるルービンシュタイン。そんな彼も高齢になるにつれて若い頃のように演奏することが難しくなっていきました。そこで彼は演奏レパートリーを減らし(選択)、1曲の練習時間を増やしました(最適化)。また、速い手の動きが求められるパートの前の演奏をあえてゆっくり弾くことで(補償)、曲のコントラストを強調させました。抑揚の効いた見事な演奏は人々を魅了し、ルービンシュタインは晩年になっても高い評価を受けることになりました。
誰でも加齢に伴う身体機能の低下を避けることはできません。「高齢でも残された機能を活かして、できることで幸せを感じる」―。人生100年時代ともいわれる今、“加齢に前向きな人生”にしていくことが私たちには求められています。


